改正労働基準法(平成22年4月施行)のポイント
いよいよ、改正労働基準法が平成22年4月1日より施行されます。
今回の改正は、「長時間労働の抑制」「労働者の健康の確保」「仕事と生活の調和がとれた社会の実現」を目的とした内容となっています。
特に、月45時間超など、「特別条項付き協定」を締結して時間外労働を行っている事業所については、4月以降、企業規模の大小を問わず、新たに義務付けられる事項が出てきますので、早めに対応、準備をされることをおすすめします。
主な改正内容は次のとおりです。
1.「時間外労働の限度に関する基準」の見直し 【中小企業にも適用】
(1)限度時間を超える時間外労働について、一定の期間(1日を超え3か月以内の期間、1年間)ごとに割増賃金率を定めること【義務】
(2)(1)の率については、25%を超える率とするよう努めること【努力義務】
(3)延長することができる時間数を短くするよう努めること【努力義務】
2.法定割増賃金率の引き上げ 【中小企業は適用猶予】
(1)1か月60時間を超えて時間外労働をさせた場合の法定割増賃金率が、50%以上の率に引き上げられます。
(2)(1)については、労使協定により、法定割増賃金率の引き上げ分の割増賃金の支払に代えて、有給の休暇を付与することができます。
<割増賃金支払のイメージ>
3.年次有給休暇の時間単位付与 【中小企業にも適用】
労使協定の締結により、年に5日を限度として、年次有給休暇を時間単位で付与できるようになります。
まずは対応が必要かどうかをチェック
改正内容のすべてが、ただちにすべての会社に当てはまるわけではありませんので、
それが「義務」なのか、「努力義務」なのか、
「中小企業には猶予」されるものなのか、
「労使協定を締結した場合に限って適用される」ものなのか、
といったところが今ひとつ、わかりにくいかもしれません。
そこで、企業規模別、導入の有無に応じて、必要な対応方法を一覧表にまとめましたので、自社の対応チェック表としてご参考下さい。
平成22年4月1日以降に締結、更新する「特別条項付き36協定」が対象となります。
(1) 限度時間を超える時間外労働について、一定の期間(1日を超え3か月以内の期間、1年間)ごとに割増賃金率を定めること【義務】
(2)(1)の率については、25%を超える率とするよう努めなければなりません。【努力義務】
(3)そもそも延長することができる時間数を短くするよう努めること【努力義務】
- 限度時間とは?
時間外労働の限度に関する基準(平成10年労働省告示第154号)で定められた、労使で協定(36協定)を結んだ場合に可能となる時間外労働の限度をいいます。
臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わせなければならない特別な事情が予想される場合は、
「特別条項付き36協定」を結ぶことで、上記の限度時間を超えた延長時間とすることが可能となります。
- 特別条項付き36協定で定める事項
?原則としての延長時間(限度時間以内の時間)
?限度時間を超えて時間外労働を行わせなければならない特別の事情(できるだけ具体的に)
※特別の事情は具体的なものに限られ、「一時的又は突発的であること」「全体として1年の半分を超えないことが見込まれること」が必要です。
?一定期間の途中で特別の事情が生じ、原則としての延長時間を延長する場合に労使がとる手続
?限度時間を超える一定の時間
?限度時間を超えることのできる回数
?限度時間を超える時間外労働の割増賃金率(1日を超え3か月以内の期間、1年間)
※特別条項付き36協定の様式は特に決められていませんので、36協定の届出様式の任意の部分に記載をする方法、別紙として添付する方法、 のどちらでも構いません。
<特別条項付き36協定の例>
- 就業規則への記載
「特別条項付き36協定」で割増賃金率を定めた場合には、就業規則の絶対的記載事項である「賃金の決定、計算及び支払の方法」に該当しますので、就業規則(賃金規程)にも新しい割増賃金率を記載する必要があります。
(1)1か月60時間を超えて時間外労働をさせた場合、その超えた時間の労働に対する法定割増賃金率が、50%以上の率に引き上げられます。>
- 深夜労働の場合
1か月60時間を超える法定時間外労働を深夜時間帯に(22:00〜5:00)行わせた場合の割増賃金率は
(深夜)25%以上+(時間外)50%以上=75%以上 となります。
-
法定休日労働との関係
法定休日(1週間に1日または4週間に4回の休日)に行った労働は、1か月60時間の時間外労働の算定には含まれません。
(ただし、35%以上の率で計算した割増賃金の支払は必要です。)
したがって、例えば日曜日が法定休日である場合、日曜日に行った労働は1か月60時間の時間外労働の算定には含まれませんが、土曜日や祝祭日など、それ以外の休日に行った法定時間外労働は含まれます。
-
平成22年4月1日を含む1か月についての取扱い
平成22年4月1日から時間外労働時間を累計して60時間に達した時点より後に行われた時間外労働について、5割以上の率で計算した割増賃金の支払が必要となります。
(2)引き上げ分の割増賃金の支払に代えて、有給の休暇(代替休暇)を付与することができます。> 1か月60時間を超える法定時間外労働を行わせた労働者に対しては、労使協定により、引上げ分の割増賃金の支払に代えて、有給の休暇を与えることができます。
?代替休暇の時間数の具体的な算定方法
代替休暇の時間数 =(1か月の法定時間外労働時間数 − 60)× 換算率
換算率 = 代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率
− 代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率
?代替休暇の単位
「1日」「半日」「1日または半日」のいずれかによって与えることとなります。
?代替休暇を与えることができる期間
一定の近接した期間内、具体的には、法定時間外労働が1か月60時間を超えた月の末日の翌日から2か月間以内」の期間とします
※なお、期間内に代替休暇が取得されなかった場合でも、使用者の割増賃金支払義務はなくなるわけではありませんので、その場合は、代替休暇として与える予定であった割増賃金分を含めたすべての割増賃金額を支払う必要があります。
?代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日
◇取得日の決定方法(意向確認の手続)
・代替休暇を取得するか否かの確認
・取得の意向がある場合には取得日を決定する
◇割増賃金の支払日
・代替休暇を取得した場合、取得しなかった場合、また当初の意向の有無が後に変更となった場合に、割増賃金をいつ、どのように支払うかについて協定します。
この法定割増賃金率の引上げに関しては、当分の間、中小企業への適用が猶予されます。(法施行3年経過後に検討)
猶予される中小企業に該当するかどうかは、「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」で判断されます。
この場合、事業場単位ではなく、企業単位で判断されますので、ご注意ください。
<猶予される中小企業の範囲>
○(参考)中小企業の業種について
http://www.mhlw.go.jp/za/0730/d27/d27-02.pdf
○(参考)日本標準産業分類について
http://www.stat.go.jp/index/seido/sangyo/19-3.htm
過半数組合、それがない場合は過半数代表者との間で労使協定を締結することにより、年に5日を限度として、年次有給休暇を時間単位で付与することができるようになります。(時間単位年休)
一部を対象外とする場合は、「事業の正常の運営」を妨げる場合に限られ、取得目的によって対象範囲を定めることはできません。
(例)
○工場のラインで働く労働者を対象外とする → 事業の正常な運営が妨げられる場合は可
×育児を行う労働者に限る。→ 取得目的による制限なので不可
?時間単位年休の日数
5日以内の範囲で定めます。
前年度からの繰り越しがある場合は、その繰り越し分も含めて5日以内となります。
?時間単位年休1日の時間数
1日分の年次有給休暇に対応する時間数について、所定労働時間数を基に定めます。
1時間に満たない端数がある場合は時間単位に切り上げてから計算します。(1日ごと)
(例)1日の所定労働時間が7時間30分のとき、5日分の時間単位年休(時間数)は
→ 7時間30分を切り上げて1日8時間とする。
→ 8時間×5日=40時間分の時間単位年休
となります。
※7時間30分×5日=37時間30分を切り上げて38時間 とすることはできません。
※日によって所定労働時間数が異なる場合は、「1年間における1日平均所定労働時間数」
(これが決まっていない場合は決まっている期間における1日平均所定労働時間数)を基に定めます。
?1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数
1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数(「2時間」「3時間」など)
ただし、1日の所定労働時間数を上回ることはできません。
ただし、日単位での請求を時間単位に変えることや、時間単位での請求を日単位に変えることはできません。
?平均賃金
?所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
?標準報酬月額(労使協定が必要)
のいずれかをその日の所定労働時間数で割った額になります。
?〜?のいずれかにするかは、日単位による取得の場合と同様にします。